飲食店ファンづくり|常連を「店の宝」に育てる小さな仕掛け

飲食店ファンづくり|常連を「店の宝」に育てる小さな仕掛け

「あのお客さん、最近来てくれないな」と、ふと厨房で思うことはありませんか。月商100万円前後の小さな店では、常連さんひとりが来なくなるだけで、肌でわかるくらいに空気が変わります。新しいお客さんを呼ぶことに一生懸命になるのは自然なことですが、すでにあなたの店を好きでいてくれる人を、もっと深く「ファン」にしていく工夫には、なかなか手が回らないものです。それは怠慢ではなく、毎日の営業で手いっぱいな証拠です。

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「また来てくれた」ではなく「あなたが来てくれた」という感覚を届ける

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手書きの一枚が持つ、デジタルには出せない体温

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季節の一皿が「この店だけの理由」をつくる

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「選ばれ続ける店」になるために、今日からできること

今日は、広告費を使わずに、大げさな仕組みも作らずに、常連さんを「この店が好き」から「この店じゃないとだめだ」へと育てるための、小さくて温かい仕掛けについてお話しします。

「また来てくれた」ではなく「あなたが来てくれた」という感覚を届ける

常連さんへの接し方で、多くの店が無意識にやってしまっていることがあります。それは「また来てくれてありがとう」という感覚で接することです。悪いことではありません。でも、お客さんの心に深く刺さるのは、「また来てくれた(回数への感謝)」ではなく、「あなたが来てくれた(存在への歓迎)」という感覚です。

この違い、わかりますか。前者はどのお客さんにも言える言葉です。後者は、その人にしか言えない言葉です。

たとえば、先週「最近腰が痛くて」と話してくれたお客さんが今週来たとき、「腰の具合、いかがですか」と一言添える。それだけで、そのお客さんは「ちゃんと覚えていてくれていた」と感じます。これは、マーケティングで言う「関係性の深さ」、つまりお客さんとの信頼の積み重なり具合を高める行為です。

スタンプカードのポイントが貯まるから来る、というのは「条件付きの来店」です。でもあなたのことを覚えていてくれるから来る、というのは「感情に根ざした来店」です。後者の方が、はるかに長く続きます。

手書きの一枚が持つ、デジタルには出せない体温

ある小さな洋食屋さんの話をさせてください。席数15席、夫婦ふたりで切り盛りするお店です。そこのご主人が何年も続けていたのは、常連さんへの「季節の一筆箋」でした。春なら「桜が咲き始めましたね。今月は春キャベツを使った新しい一皿を用意しています」。秋なら「めっきり涼しくなりました。体に気をつけてお過ごしください」。それだけです。

印刷ではなく、手書きです。切手を貼って、郵送していました。月に送るのは10〜15枚。切手代にして200円もかかりません。でも、その一枚を受け取ったお客さんのうち、8割近くが翌月中に来店したと、ご主人は教えてくれました。

なぜ手書きなのか。それは、時間がかかるからです。手間がかかるからこそ、受け取った人は「自分のために書いてくれた」と感じます。印刷されたDMには出せない、人の体温があります。料理で言えば、既製品のソースと、骨からじっくり取ったフォン(出汁)の違いとでも言いましょうか。成分は似ていても、口に入ったときの奥行きがまるで違います。

手書きの一筆箋を始めるとき、難しく考えなくていいです。

  • 季節の挨拶と、今月のおすすめを一言
  • その人との最後の会話から一言(「先日おっしゃっていたお孫さん、元気にしていますか」など)
  • 署名はフルネームではなく、お店の名前と「〇〇より」でも十分

この3つだけで、十分です。長い文章は必要ありません。むしろ短い方が、読んでもらいやすい。

季節の一皿が「この店だけの理由」をつくる

ファンづくりという観点で、もうひとつ大きな力を持っているのが「季節限定の一皿」です。ただし、ここで言う「季節限定」は、よくある「期間限定メニュー」とは少し違います。

大事なのは、「その人のために作った」と感じてもらえるかどうかです。

たとえば、「今日はいつも来てくださるお客さんに向けて、今朝市場で見つけた白魚で小さな前菜を一品用意しました」と伝える。これは、誰にでも出すものかもしれません。でも「あなただから話している」という伝え方が、限定感より特別感を生みます。

「限定」は希少性への訴えです。「特別」は関係性への訴えです。小さな店のファンづくりにより効くのは、後者だと私は思っています。

季節の一皿を活用するときのポイントをまとめると、こんなイメージです。

  • 食材は、その時期にしか手に入らないものを使う(旬の素材であることを、さりげなく言葉にして伝える)
  • メニュー表に載せなくてもいい。「常連さんだけに話す」スタイルにすることで、特別感が増す
  • 値段は通常メニューと大きく変えなくていい。お客さんが求めているのは「価格の得」より「体験の特別さ」

月商150万円の小さなお店で考えると、常連さん20人が月に2回来てくれるだけで、単純計算では月商の中に安定した柱ができます。その20人が「この店が好き」から「この店じゃないと物足りない」に変わるだけで、来店頻度が月2回から月3回になることもある。そうなると、一人のお客さんがずっと通い続けてくれる間に積み上がる売上の合計は、驚くほど大きくなります。

「選ばれ続ける店」になるために、今日からできること

ここまでお話ししてきたことは、どれも特別な投資が必要なものではありません。必要なのは、お客さんへの「まなざし」です。誰が来てくれているか。その人は何を喜ぶか。どんな季節に、どんな言葉をかけたら嬉しいか。そこに意識を向けるだけで、店の空気は少しずつ変わっていきます。

そして、こういった「選ばれる理由を整えていく」視点は、ひとりで抱え込まなくていいものです。同じ悩みを持つ店主と話してみたり、誰かに相談してみたりすることで、自分では気づけなかった「当たり前」に気づけることがあります。忙しく働いているからこそ、ときどき立ち止まって外の目を借りることの価値は、思っているより大きいものです。

今日からできる、小さな一歩をひとつだけ提案させてください。

今週中に、常連さんのお一人を思い浮かべて、はがき一枚を書いてみてください。お礼でも、季節の挨拶でも、「新しい一皿ができました」でも構いません。うまく書こうとしなくていいです。その人のことを思いながら書いた文章は、必ず伝わります。料理と同じで、気持ちは素材に宿ります。

小さな一枚が、長く続く縁を育てることがあります。まず一枚、書いてみてください。


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