
「原価率は30%以内に抑えなければいけない」——そう教わって、ずっとその数字を守ろうとしてきた方は多いと思います。でも、なんとなく窮屈さを感じていませんか。もっとおいしいものを出したいのに、コストが気になって踏み出せない、という経験をされている方へ、今日は少し違う角度からお話しさせてください。
「原価率30%」はルールではなく、目安のひとつです
「平均原価率」という考え方が、小さな店を救う
看板料理には、思い切って原価をかけてください
看板料理が「選ばれる理由」をつくる
「原価率30%」はルールではなく、目安のひとつです
飲食店の原価率——つまり「売上のうち、食材費がどのくらいの割合を占めているか」——について、30%という数字はたしかによく使われます。月商100万円の店なら、食材費を30万円以内に収めましょう、という考え方です。
この数字自体が間違っているわけではありません。ただ、これはあくまで「経営全体のバランスを保つための目安」であって、「一品一品の料理に当てはめるルール」ではないんです。
ところが多くの方が、メニューを考えるとき、一皿ごとに30%を当てはめてしまいます。「この食材を使うと原価率が35%になってしまう。やめておこう」と。その積み重ねが、いつの間にかメニューから冒険を奪い、お客さんにとって「どこかで食べたことがある味」だけが並ぶ店になってしまうことがあります。
料理は、仕込みと同じで、手をかけた分だけ人の心を動かします。数字だけを見ていると、その「手のかけどころ」を見失いやすくなります。
「平均原価率」という考え方が、小さな店を救う
ここで紹介したいのが、「平均原価率」という見方です。難しい言葉に聞こえるかもしれませんが、要は「メニュー全体を合わせたときの原価率が30%前後に収まっていればいい」という考え方です。
一品一品を30%以内に揃える必要はなく、高い原価のものと低い原価のものをバランスよく組み合わせることで、全体として健全な経営ができるという発想です。
たとえば、こんな組み合わせを想像してみてください。
- 看板の煮込み料理(原価率42%):その店でしか食べられない味。お客さんがわざわざ来る理由になる
- 季節の漬物の小鉢(原価率15%):手間はかかるが、食材コストは低い。でも「丁寧な店だ」という印象を与える
- ドリンク類(原価率20〜25%):利益率が高く、全体のバランスを整える
- ごはんや汁物(原価率18〜22%):定食の骨格をつくる、安定した品
これらを合わせると、全体の平均原価率は28〜32%あたりに落ち着きます。個別に見れば「高い」ものがあっても、全体では無理のない数字になっているわけです。
大切なのは、一品の原価率ではなく、「お客さんが一度の食事でどれだけ注文してくれるか」「その組み合わせで全体としてどう成り立つか」という視点です。
看板料理には、思い切って原価をかけてください
私がこれまで全国の小さな飲食店のオーナーさんたちとお話ししてきて、何度も感じたことがあります。「選ばれ続ける店」には必ず、お客さんがその店に来る理由——つまり「これを食べたいからあの店に行く」という一品があるということです。
その一品は、原価率が多少高くなってもいい。むしろ、高くなるくらい手をかけ、素材にこだわるべきだと私は思っています。
あるとき、地方の小さな定食屋さんのご主人から相談を受けました。月商は120万円ほど。「売上が伸び悩んでいる」とのことでした。話を聞くと、自慢の肉じゃがを原価が高いからと、食材を少し落としたことがあったそうです。お客さんからは特に何も言われなかったけれど、気づけばリピートで来てくれていた常連さんの顔が減ってきた、と。
その肉じゃがは、後に元の素材に戻しました。すると少しずつ、あの常連さんたちが戻ってきたそうです。「変わったって気づいてたよ」と、お客さんは笑いながら言ったそうです。
お客さんは、思っている以上に敏感です。「何かが違う」と感じる感覚は、言葉より先に来ます。
看板料理が「選ばれる理由」をつくる
マーケティングの世界では、「お客さんがその店を選ぶ理由を明確にすること」がとても大切だと言われます。難しく言う必要はありません。要するに「なぜあなたの店でなければいけないか」という答えを、お客さんの心の中に持ってもらうことです。
その答えになりうるのが、看板料理です。
月商150万円の店を考えてみましょう。一人のお客さんが月に2回来てくれるとして、年間24回。客単価1,200円なら、一人のお客さんが一年間に運んでくれる売上は28,800円になります。その方が5年通ってくれれば、14万円以上のご縁です。
看板料理の原価を少し上げることで、その方が「また来たい」と思い続けてくれるなら、それは十分に意味のある投資ではないでしょうか。値引きをしたり、広告を打ったりするよりも、「あの一品があるから通う」という理由をつくることのほうが、小さな店には合っていると私は考えています。
一度試してみていただきたいのは、今のメニューの中で「これが自分の店の顔だ」と思える一品を決め、そこだけは原価率を気にせず、自分が本当に納得できる素材と手間をかけてみることです。その一品が、お客さんにとっての「来る理由」になるかもしれません。
数字と向き合うために、知っておきたいこと
原価率の考え方を整理すると、こんな見方もできます。
- 原価率が高い料理:看板メニュー、季節の一品料理、素材にこだわる品。集客の理由になる
- 原価率が低い料理:定番の汁物、漬物、ドリンク、デザート。全体のバランスを整える
- 大切なのは:一品の数字ではなく、お客さんが一食で頼む「組み合わせ全体」の平均
もちろん、原価率だけで経営は成り立ちません。家賃、光熱費、人件費、そういったものも含めた全体の収支をしっかり見ることが前提です。ただ、「30%を守ることが目的」になってしまうと、本来の目的——おいしいものをお客さんに届けて、喜んでもらい、また来ていただく——が後回しになりがちです。
数字は、経営の地図です。地図を読むことは大切ですが、地図ばかり見て歩くと、目の前の景色を見逃します。
こうした考え方は、一人で悩んでいてもなかなか整理がつかないものです。同業者でも、信頼できる誰かと話してみることで、意外とすっきりすることがあります。あなたの近くに、そういった場はありますか?
まとめ:今日から一つだけ、やってみてください
原価率30%は、守るべきルールではなく、参考にする目安のひとつです。全体の平均として成り立っていれば、一品ごとに縛られる必要はありません。そして、看板料理にはしっかり原価をかける。それが「選ばれる店」への道につながると、私は長年の経験から感じています。
今日からできる、小さな一歩をご提案します。
今のメニューを紙に書き出して、それぞれのざっくりとした原価率を書いてみてください。完璧な数字でなくて構いません。「これは高め」「これは低め」くらいの感覚で十分です。そして、全体を眺めてみてください。バランスが見えてくるはずです。そこから、「看板にするなら、どの一品に投資できるか」が自然と浮かんできます。
数字と向き合うことは、料理と同じです。素材を知り、手順を整えれば、必ずいい仕事ができます。あなたの店には、きっとそれだけの力があります。
学んで、伸びる店になる。
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